給料据え置きは実質3%減給?データで見る物価高と実質賃金のリアル(2025年11月版)

重岡 正 ·  Sun, November 30, 2025

「賃上げ率34年ぶりの高水準!」といったニュースがメディアを賑わせた2025年。しかし、私たちの多くは「給料は上がったはずなのに、なぜか生活は楽にならない…」と感じているのではないでしょうか。

その感覚は間違いではありません。給料の額面(名目賃金)は上がっていても、それ以上に物価が上昇していれば、買えるモノやサービスの量は減ってしまいます。この、物価の変動を考慮した給料の本当の価値を「実質賃金」と呼びます。

今回は、2025年11月末時点の最新データをもとに、この実質賃金の現状を分析し、「もしあなたの給料が据え置きだったらどうなっていたのか?」をシミュレーションします。

2025年、賃金と物価の「かけっこ」の現状

まず、2025年9月時点の公式データを見てみましょう。

指標数値(前年同月比)
名目賃金(現金給与総額)+1.9%
消費者物価指数(物価)+2.9%

※物価は「総合指数」、賃金は「毎月勤労統計調査」より

これを見ると、賃金が1.9%上がっているのに対し、物価は2.9%も上がっていることがわかります。つまり、賃金の上昇が物価の上昇に追いついていない状態です。

この差が、私たちの購買力に直結します。厚生労働省が公表している同月の実質賃金は、前年同月比で ▲1.4% となっており、これで実に9ヶ月連続のマイナスです。これは、私たちの給料で買えるモノの量が、1年前に比べて1.4%減ったことを意味します。

もし給料が「据え置き」だったら?衝撃のシミュレーション

では、本題です。もし、2025年にあなたの給料が全く上がらなかった(据え置きだった)場合、実質賃金はどうなっていたでしょうか。

計算はシンプルです。

実質賃金の変化率 ≈ 名目賃金の変化率 - 物価上昇率

この式に当てはめてみましょう。

  • 名目賃金の変化率: 0%
  • 物価上昇率: +2.9%

実質賃金の変化率 ≈ 0% - 2.9% = -2.9%

つまり、給料が据え置きだった場合、あなたの給料の価値は実質的に約3%も目減りしていたことになります。これは、実質的な「3%の減給」に等しいインパクトです。

年収500万円の人であれば、年間で約15万円分の購買力を失った計算になります。物価高、特に食料品の値上がりが家計を圧迫している中で、これは非常に厳しい状況だと言えるでしょう。

なぜ「高水準の賃上げ」なのに実質賃金はマイナスなのか?

ここで疑問に思うのが、「春闘では5.25%もの賃上げが実現したのでは?」という点です。この数字と、実際の賃金統計(+1.9%)との間には大きなギャップがあります。

このギャップが生まれる主な理由は以下の通りです。

  1. 春闘は大企業・組合員が中心:春闘の集計は、労働組合のある比較的大きな企業が中心です。日本企業の99%以上を占める中小企業や、非正規雇用の労働者全体に、同じ水準の賃上げが波及しているわけではありません。
  2. 賃上げ率には「定期昇給」も含まれる:春闘で発表される賃上げ率には、年齢や勤続年数に応じて自動的に給与が上がる「定期昇給(定昇)」分が含まれています。給与水準を全体的に底上げする「ベースアップ(ベア)」分は、連合の集計で 3.70% でした。

つまり、社会全体の平均で見ると、賃金の伸びは春闘の華々しい数字よりも緩やかになり、結果として物価上昇に追いつけていないのが実態です。

実質賃金を「プラスマイナスゼロ」にするには?

では、少なくとも給料の価値が目減りしない「プラスマイナスゼロ」の状態にするには、どうすればよいのでしょうか。

先ほどの式に戻ると、答えは明確です。

名目賃金の上昇率 ≧ 物価上昇率

つまり、物価上昇率と同じか、それ以上に名目賃金が上がれば、実質賃金のマイナスを回避できます

2025年9月時点のデータで言えば、少なくとも 2.9% の賃上げが必要だったわけです。

これを実現するためには、マクロな視点では、春闘の成果がより広く中小企業にも行き渡り、社会全体の賃金が底上げされることが不可欠です。

一方で、私たち個人にできることは何でしょうか。

  1. 自社の賃上げ率を確認する:自社の賃上げ率が、世の中の物価上昇率(約3%)を上回っているかを確認しましょう。もし下回っているなら、それは実質的な減給を意味します。
  2. スキルアップとキャリアアップ:会社の業績や方針に依存せず、自身の市場価値を高める努力は不可欠です。特に我々エンジニアは、新しい技術を学び、より高い価値を提供することで、昇給交渉やより良い条件の企業への転職(ジョブホッピング)が可能です。
  3. 経済動向を注視する:今後、物価上昇が落ち着き、賃上げの勢いが続けば、2026年には実質賃金がプラスに転じる可能性も指摘されています。政府の統計データを定期的にチェックし、世の中のお金の流れを把握することは、自身のキャリア戦略を立てる上で非常に重要です。

まとめ

2025年11月時点では、「賃上げ」ムードとは裏腹に、多くの人にとって購買力は低下し続ける厳しい年でした。特に給料が据え置きだった方は、実質的に 約3%の減給 という厳しい現実に直面しています。

この「賃金と物価のかけっこ」に負けないためには、社会全体の構造的な課題に加え、私たち一人ひとりが自身の価値を高め、賢くキャリアを築いていく視点がこれまで以上に求められています。

まずは、政府が公表する一次情報に触れ、現状を正しく認識することから始めてみてはいかがでしょうか。

以上、2025年11月末時点での物価高と実質賃金をシミュレーションした、現場からお送りしました。

参考情報