読書メモ『ユーザーファースト 穐田誉輝とくふうカンパニー――食べログ、クックパッドを育てた男』野地秩嘉(著)

『ユーザーファースト 穐田誉輝とくふうカンパニー――食べログ、クックパッドを育てた男』野地秩嘉(著)を読んだので、書籍から得た知見をご紹介します。

背景 穐田さんの考え方を知りたい

穐田さんの考え方を知りたく、この本を読みました。

以下、印象に残った箇所の引用とメモです。

第1部 現状を疑う“働く株主”──クックパッド社長退任まで

05 カカクコム

現状を疑う

そういうビジネスは長くは続かない。
穐田はアイシーピー時代、友人が結婚した時、ウェディングドレスの持ち込み料を 30万円請求されたと聞いた時、憤慨した。
当時の彼は生活のなかで許せない現実にぶち当たることが多かった。そんな時にインターネットを使って改善するサービスを考えた。世の中の許せない現実を疑い、変えなくてはならないと心底から思った。

📝世の中の許せない現実を疑う。

07 空白時代に考えたこと

6年間の空白時代

彼は 37歳から6年間、まったくと言っていいほど仕事をしなかった。野球やゴルフをして身体を動かした。海外へも旅行した。

わたしは彼が人生で誇るべきことがあるとすれば、それはカカクコムや食べログ、クックパッドを成長させたことではないと思う。IT経営者が働けば働くほど儲かった時期に何もしなかったことこそ重要だ。
思うに、彼でなくとも人は絶好のチャンスの時期に何もしないと、その代わり精神的な充足感を得られるのではないか。お金を持っていたとはいえ、よほどの勇気がないと空白時代を持つ決断はできない。会社勤めをしていた人間が定年退職すると、金を持っていても不安になる。何もやらない決断ができる人間は決して多くはない。

📝絶好のチャンスの時期に何もしないことが重要。

忘れてはいけないこと

📝toCビジネスの要点がおさえられているセクション。

穐田が空白時代にその骨格をつくり、自らそれに従おうとしているルールがある。
1番目は、ユーザーの声をサービスにつなげる。
彼の大原則だ。たとえば新聞の電子版、オンラインマガジン、動画メディアにはプロが取材、制作した加工情報が載っている。
だが、穐田は加工情報よりもユーザーの声を直接、集めてきてサービスにつなげる。口コミサイトと呼ばれるジャンルだ。

📝ユーザーの声を届けるサービスにつなげる。

2番目はユーザーのコミュニティを育てること。(中略)新聞には読者の自発的コミュニティは存在しない。

(中略)

一方、カカクコム、食べログ、クックパッドのユーザーは自分たちのことを同じ目的を持つ同志と思っている。しかも、タダで情報を得ている(有料購読者は別)。得だと思っている。そのため、自発的なコミュニティができる。
これからのメディアの価値は自発的なコミュニティが自然に生まれるかどうかにある。

3番目はIT企業の経営者としては奇特な決断だ。彼は「ゲームはやらない」と決めた。子どもたちの貴重な時間とお金を奪うゲームビジネスはやらない。

📝同じ考え。

4番目は、商品設計では完璧を目指すのではなく、無限を追求する。
穐田がユーザーに提供している情報は生の情報だ。たとえばパソコンの値段でも「その時点におけるいちばん安い値段」であって、翌日になったら、さらに安いものが出てくることもある。
また、レシピでも、クックパッドにはひとつの完璧なレシピが掲載されているわけではない。

(中略)

インターネットメディアが得意とするのは完璧な情報をひとつ載せることではなく、限りなく多くの情報を掲載することだ。そして、ユーザーもまた、ひとつの完璧な情報を求めているわけではない。完全な答えよりも、無限に情報を集めて送り届けるシステムがあるかどうかがインターネットビジネスには必要だ。

5番目は組織づくりだ。組織は大きくしない。小回りの利く組織をいくつもつくる。インターネットビジネスでは中央集権型組織ではなく、分散型の生態系にして、そして、全体の意思は社長ではなく、ユーザーが決定する。
彼の経営はユーザーのためにある。人に喜んでもらいたい、人が喜ぶようなことをできない自分は不甲斐ないと痛切に思っている。

📝小回りの効く組織をいつも作るという考え方は自分もそう。

08 クックパッド

4つの政策

社員をシャッフルしたことはいくつかの効果をもたらした。
異動するとなれば、それまでの仕事を整理しなくてはならない。仕事の棚卸しだ。自分の仕事を点検して、それが必要なのかどうかを顧みることになる。そして、引き継ぐ際には改善しようと考える。仕事の効率化は進み、さらに後任に教えることでコミュニケーションが生まれ、活発になる。硬直化した仕事は改善され、社内の風通しがよくなった。それを考えると、大きな人事異動は会社が傾いた時にやるのではなく、成長している最中にやった方がいい。

📝大きな人事異動は成長している最中にやった方がいい。

第2部 ユーザーが導いてくれるから──くふうカンパニーの立ち上げ

01 クックパッド時代の出資先を買い取る

前田CPOの話

本質的な課題設定をされる方です。
トクバイのシステムを移管した時の話ですけれど、龍田さんに「システムを持ってくるのに2年ぐらいかかります」って言ったら、『半年でやれないか』って。半年はどう考えても無理ですって言うと、『じゃあ、1年でやれないの?』。やれるかやれないかわからないですけど、とりあえず死ぬ気でやることだけはコミットします。でも、やれるかどうかは断言はできませんって、逆ギレ気味で答えたのを覚えてます。結局、できるのに1年半かかりました。
要求度が高い。それをさらりと出してくる。そういう感じ。本質的なことをさらりとぶっこんでくる。そこはいつになっても変わらない」

📝本質的な課題設定。

オウチーノのつくり替え

金融商品、介護、葬儀など、ユーザーが困っているサービスはいくつもある。そうした分野に進出し、割高な手数料を安くすればいい。インターネットとAIの技術を使えば人間がやらなくていいのだから、自然とコストダウンできる。穐田でなくとも誰がやってもできる仕事なのだけれど、ユーザーファーストの企業でなければ気づかない。

📝ユーザーファースト

広告と収入

くふうカンパニーグループが運営するサイトにおける収益は、主に広告収入と法人のシステム利用料だ。これは何もくふうカンパニーに限らず、サイトに読者を集めるIT企業ではどこも似たようなものである。

企画広告と有料サービス

サイトが収益を上げるための広告にはもう一種類ある。それが企画広告だ。クックパッドがお酢やケチャップなどのメーカーに提案した販促要素のある広告企画のことだ。
トクバイであればチラシを出すスーパーや量販店以外にも、食品メーカーなどに企画広告を提案する。

📝企画広告。

ただ、穐田は広告はユーザーあってのものと考えている。ユーザーが増えれば広告はついてくる。何よりもユーザーを増やす。そのためには質のいいサービスを提供する。そして、無料のサービスだけでなく、有料のそれをつくり、有料ユーザーを集める。有料ユーザーには「お金を払ってもこれなら安い」と思ってもらえるサービスを提供する。

📝有料サービス。

02 くふうカンパニーの目指すもの

くふうカンパニーはある組織に似ている

持ち株会社とグループ会社の関係で、くふうカンパニーのようなシステムにしているところはない。
だが、全体をひとつの組織として見ると、出版社と似ている。
出版社と編集部は親会社と子会社の関係に近い。出版社の社長は編集長も含めた人事権を持っている。方向性をアドバイスすることはできる。しかし、編集権は持っていない。

📝持株会社-グループ会社経営の参考事例。

人材に育ってもらうこと

加えてくふうカンパニーでは起業を前提とした採用も行っている。起業人材、経営人材を育成するためだ。
そして、穐田は入ってきた新入社員には最初に言うことにしている。
「入社ありがとう。当社を選んでもらえて感謝しています。では、できるだけうちの会社を早く辞めて、経営者になってください」

📝起業家、経営者だけでなく、人材輩出企業にしたい。

エンジニアとデザイナー

くふうカンパニーのサービスをユーザーのためにつくり込むのがエンジニアとデザイナーだ。
穐田はつねづね「自分が今、大学生なら絶対にエンジニアになる。エンジニアになってから起業する」と言っている。

📝私はエンジニアになってから起業しました。

生活のほとんどの部分で、私たちはスマホアプリを行動の入り口にし始めている。
スーパーへ買い物に行く時でも、事前にデジタルチラシを眺め、重い商品なら配達してもらうためにアプリから依頼する。
(中略)
エンジニアとデザイナーがいなければもはや誰も生きていくことはできない。

📝当事者としてはこの表現ほど誇張することは無いが、誇りを持って仕事をしたい。

仕事の実際

エンジニア、デザイナーは社内で評価されるだけではダメだ。社外の人間からでも「あの人は優秀だ」と認められなければならない。そうでないと、独立できないだけでなく、会社勤めしていても職位は上がっていかない。どちらの仕事も会社員でありながら、客観的な評価を受ける仕事だ。

📝エンジニア、デザイナーは社内外から評価を受ける仕事。

AIを入れる

くふうカンパニーがすべてのサービスに導入し始めているのがAIだ。

「Zaimでは「買いものレシピ AI」を始めました。直近1~2週間の購入履歴から自動で食材を抽出し、AIがレシピを提案します。賞味期限が切れそうな食材など、自分が使い切りたい野菜をチャットに入力すると、その食材を使ったレシピが出てきます。ちょっとやってみますね。じゃあ、卵とレタスを入れると、ああ、こんな風に茄子とピーマンとレタスの卵炒めが出てきました。うーん、あんまり食欲をそそらないですね。こういう時は卵とレタスだけにしてくれと指示して、もう一度、入力する。すると、今度は卵とひき肉炒めのレタス包みが出てきました。
でも、これがAIです。使っていくうちに情報が蓄積されて、ユーザーが好むレシピになっていく。
AIって魔法じゃありません。まだまだ万能ではないけれど、物覚えはいい。気がついたら、
じわっと役に立つサービスになっていくと思っています」

📝AI活用事例。

03 サービスの価値はユーザーを育てること

ホール・アース・カタログに似ている

ユーザーファーストとはユーザーのために便利さを提供することだけではない。ユーザーに自立してもらうためでもある。たとえば、口コミ投稿を載せることはユーザーが自立して企業に立ち向かう姿勢をつくることに役立つ。ユーザーは投稿やレビューを読んで、企業がリリースした商品やサービスの賢い使い方を知ることができる。ユーザーは商品やサービスを判断できるようになる。それが自立だ。

📝ユーザーファーストは便利さだけでなく、ユーザーに自立してもらうためのもの。

以上、ユーザーファーストであり続けたい、現場からお送りしました。