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FigJam の代替サービスを棚卸しする — 用途別の第一候補と移行コスト

重岡 正 · Sun, October 4, 2026

UI/UX デザインのレビューや合同ワークショップでは、FigJam が引き続き標準候補として採用されています。ただ 2026 年に入ってから、FigJam のライセンス体系や AI 連携まわりで仕様変更が重なり、代替候補を知らずに全社標準化を続ける判断は取りづらくなってきました。この記事では 2026 年 10 月時点で代替候補になりうる主要オンラインホワイトボードを棚卸しし、用途ごとに第一候補を書き留めます。

結論を先に書くと、FigJam から全社で乗り換えるべき強い理由はまだ出ていません。一方で、エンジニアリング中心のチーム、社外ゲストが主役のワークショップ、規制産業、日本企業の全社展開という 4 類型では、FigJam より適した代替を選べる余地があります。

FigJam 自体は終わっていない、ただし条件が変わった

Figma は 2025 年 3 月 11 日にシート体系を再編し、FigJam を独立製品ではなく「Full / Dev / Collab / View シート」の中に組み込みました。FigJam を使いたい非デザイナーには Collab シート(年払い月 3 USD、Organization と Enterprise は年払いのみで月 5 USD)を割り当てる形で、価格そのものは据え置かれています。

2026 年に入ってから、FigJam の選定条件を変える動きが 3 つ出ました。

  • AI クレジットの上限適用が始まり、Collab シートは月 500 クレジットに制限されています(2026 年 3 月 18 日の適用開始は Full シートが対象)。2026 年 8 月 25 日からは、追加クレジットが同じ価格で Professional は 2 倍、Organization と Enterprise は 1.6 倍に増量されています。
  • Model Context Protocol(MCP)に対応した Figma MCP サーバーのツール呼び出しは、公式開発者ドキュメントの「Rate limits & access」によれば、プランを問わず Collab / View シートで月 20 回に制限されています。Claude や Microsoft 365 Copilot からの図生成を日常業務に組み込むなら、実質的に Dev か Full のシートが必要です。
  • Config 2026 の発表では、Figma Agent や Figma Weave、Figma Motion に開発リソースが寄っていて、FigJam 側の目玉機能追加は MCP 対応中心でした。

一方で、FigJam の終了発表や他製品への統合発表はありません。むしろ MCP 連携や generate_diagram ツールの対応拡充で、AI エージェントがキャンバスを読み書きするための共有メモリとしての位置づけが強化されています。

ここから「全社で FigJam をやめるべき」という結論を導くのは難しく、Figma を使い続けるデザインチームにとっては Collab シート月 3 USD は依然として最安クラスです。見直すべきなのは「FigJam のためだけに Figma を契約している非デザイナー」や、「AI クレジットや MCP 上限で業務が止まってしまう使い方をしているチーム」のケースです。

2026 年 10 月時点の主要代替サービス

今回棚卸しした代替候補を、価格と位置づけで並べると以下のようになります。価格は 2026 年 10 月時点で各社の公式料金ページから取得した値を基準にしていて、年払いの代表的なチーム向けプランで揃えてあります。Lucidspark と Strap の価格は公式ページで確認できなかったため第三者の掲載情報によるもので、導入時は見積もりで確認してください。

サービス代表プラン(年払い月額換算)無料枠位置づけ
FigJam(Collab シート)3 USD / 人Starter(3 ファイル)Figma 統合、MCP で AI エージェント連携
Miro Starter8 USD / 人編集可能 3 ボードテンプレートと AI エージェント、国内データレジデンシー(Enterprise)
Mural Team+9.99 USD / 人3 Muralファシリテーション統制、Team+ 以上でゲスト無制限の編集
Lucidspark Team9 USD / 人編集可能 3 ボードLucidchart との連携、構造化作図への昇格
Whimsical Pro10 USD / 編集者月 50 オブジェクトFigJam からの編集可能コピー対応
Canva WhiteboardsCanva Pro 月額ボード無制限素材ライブラリ、資料制作へ連続
Excalidraw+6 USD / 人無料版 Excalidraw(1 シーン、E2EE)、Excalidraw+ は 14 日間トライアルOSS、Mermaid からの変換、MCP 対応
AFFiNE Pro6.75 USD / 人セルフホスト 10 席無料ドキュメントとキャンバスの統合、BYOK
Cacoo スペースプラン月 18,000 円(税抜、人数無制限)あり(機能制限)日本製、Backlog 連携、Nulab Pass
Strap1,000 円 / ユーザー〜(要見積もり)2 週間トライアル日本製、IP 制限オプション、閲覧者無料
Microsoft WhiteboardMicrosoft 365 に付属365 契約に依存単体アプリは 2026 年 10 月 16 日に終了、Teams / Web 継続
tldrawSDK 本番利用は商用ライセンス(価格非公開)tldraw.com は無料SDK 組み込み、Make Real

Microsoft Whiteboard の単体アプリ(Windows / iOS / Android)は 2026 年 10 月 16 日に終了します。公式サポート記事によれば、職場・学校アカウントでは Teams と Web 版の Whiteboard が引き続き利用できます。新規導入先として単体アプリを前提にすることはできなくなります。

Google Jamboard は先行して 2024 年末に終了していて、Google は移行先として FigJam、Lucidspark、Miro の 3 つを公式に挙げています。

用途別の第一候補

このラインナップを実務のユースケースに引き直すと、用途ごとに第一候補は分かれます。

UI/UX デザインとプロダクトマネジメント

デザインファイルを頻繁に行き来するワークフローでは、FigJam を続けるのが最もスイッチングコストが低い選択です。Collab シート年払い月 3 USD は代替候補の中でも最安クラスで、Figma Design との同一プロジェクト管理やアセット共有は他社では再現しづらいからです。

Jira や Linear のチケットをキャンバスから直接動かしたいチームは、Miro を選ぶ価値があります。Miro は 250 を超える外部連携と 7,000 を超えるテンプレートを持ち、2026 年 5 月 19 日の Canvas 26 で Sidekicks や Flows などの AI エージェント機能が本格化しました。また、Canvas 26 に先立つ 2026 年 2 月から MCP にベータ対応していて、Cursor や Claude からキャンバスを読み書きできます。

要件定義や初期構想の段階で、画面仕様とフローを素早く固めたいなら Whimsical が合います。Whimsical は FigJam からのコピー&ペーストを公式サポートしていて、形状・付箋・テキスト・表・コネクターなどをネイティブオブジェクトに変換します。カスタムフォント非保持、未対応ウィジェットはスキップという制約はあります。

ソフトウェアエンジニアリングとシステムアーキテクチャ

エンジニアリング主導のチームでは、描画の派手さよりもコードとの親和性、軽快な動作、ドキュメントとしての再利用性が選定条件になります。この要件に合うのは Excalidraw です。MIT ライセンスの OSS で、ブラウザ内 E2EE、Mermaid からの変換(フローチャート)、Obsidian プラグイン、MCP 対応と、技術者向けの材料が揃っています。手描きスタイルによる視覚効果が、未確定のアイデアを置きやすい雰囲気を作る点も合います。

一方で、クラウドインフラ構成図(AWS、Azure、GCP)や BPMN など、監査や公式仕様書として長期保守する図には Excalidraw は向きません。Excalidraw の標準機能には、BPMN の記法に沿った作図機能やクラウド構成図向けの図形セットがないためです。この領域では Lucidspark と Lucidchart の統合スイートが有力な選択肢になります。ブレインストーミング段階の付箋を Lucidchart の UML / ER 図 / BPMN へ昇格できるワークフローは、他社では再現しにくい特徴です。

OSS 志向をさらに広げて、ドキュメントとキャンバスをひとつのワークスペースにまとめたい場合は AFFiNE が選択肢に入ります。Pro プランは月 6.75 USD で、Docker Compose を用いたセルフホストなら 10 席まで無償で運用できます。AI 機能は BYOK(Bring Your Own Key)で OpenAI・Anthropic・Google Gemini などの API キーを設定できるため、機密情報を社外に出さずに生成 AI を活用できます。

tldraw は SDK 4.0 以降、本番利用にライセンスキーを必須にしています。商用ライセンスの価格は value-based pricing として公開されていません。自社製品に無限キャンバスを組み込みたい場合や Make Real を試す場合には引き続き強い選択肢ですが、「個人のスケッチ環境」としての位置づけは変わっています。

ファシリテーション主体のワークショップ

社外ステークホルダー、受講生、顧客企業を招くワークショップが主業務なら Mural が有力です。Team+ 以上のプランでは無制限のゲストが無料で編集に参加できるため、アカウント作成や有償シート割り当てを省けます。ファシリテーターによる画面同期、プライベートモード、投票、タイマーが揃っていて、Business プラン(年払い月 17.99 USD)では SAML SSO が加わります。

Business プランの年払い単価は Miro が月 20 USD、Mural が月 17.99 USD で、メンバー単価でも Mural の方が安くなります。さらに Mural は Team+ 以上でゲストが無料で編集に参加できるため、ゲスト参加が多い組織ほど差が開きます。

規制産業・データ主権重視

金融・医療・防衛など、パブリッククラウド SaaS へのデータ集約自体がコンプライアンスリスクになる領域では、セルフホスト運用に対応した AFFiNE が現実的な選択肢になります。社内 Docker 環境に 10 席まで無償でプライベートインスタンスを立てられて、ドキュメントとキャンバスが融合したワークスペースを社内ネットワーク内で完結できます。

社内でパブリッククラウドを許容できる場合は、Miro Enterprise が 2026 年 7 月 9 日に日本国内データレジデンシーを発表しました(プライマリ東京、バックアップ大阪)。ミロ・ジャパンの発表では、金融機関、官公庁、医療機関などガバナンス要件が厳しい組織が主な対象として挙げられています。日本国内レジデンシーは Enterprise プラン限定、EU レジデンシーは全プランです。

日本企業の全社展開

人数課金を避けて日本国内で全社展開したいなら、Cacoo のスペースプランが条件に合います。2026 年 4 月 27 日に投入された新プランで、月 18,000 円(税抜)・年 180,000 円(税抜)でユーザー数とシート数が無制限です(1 スペース最大 10,000 ユーザー推奨)。50 人なら 1 人あたり月 360 円、100 人なら月 180 円と、人数が多い組織ほど割安になります。Backlog との連携、日本語サポート、Nulab Pass によるアクセス管理の一元化も揃っています。

Strap は Goodpatch が提供する日本製で、IP アドレスによるアクセス制限がオプションで使えて、閲覧のみのユーザーはログイン不要かつ課金対象外です。顧客との共有に向いた設計です。無料プランはなく 2 週間のトライアルのみで、料金は 1,000 円 / ユーザー〜という掲載情報と要問い合わせという情報が混在しているため、見積もりで確認する必要があります。

Miro の買収リスクをどう織り込むか

Miro については、2026 年 9 月 10 日に Bending Spoons が買収で合意したことを選定材料に含める必要があります。企業価値 13.55 億 USD(全額現金)で、クローズは 2026 年第 4 四半期の予定です。Bending Spoons は過去に Evernote や WeTransfer を買収していて、両社とも無料プランの絞り込みを含む料金改定を行いました。

買収後の料金改定は現時点で何も発表されていません。ただし Miro Enterprise で複数年の長期契約を結ぶ場合、クローズ後の料金・無料ゲストの扱い・サポート体制が未確定であるという前提で、1 年単位の契約や解約条件の確認を入れる方が運用面で安全です。

移行コストの見積もり方

FigJam から他社へ乗り換える場合、移行コストは「編集可能性をどこまで維持するか」で大きく変わります。FigJam と完全に可逆な共通交換形式は確認できず、情報損失を前提に設計する必要があります。

編集可能なオブジェクトとしての移行性で比べると、第 1 階層は Whimsical と Lucidspark です。両社とも FigJam からのコピー&ペーストを公式サポートしています。Whimsical はカスタムフォント非保持、未対応ウィジェットはスキップという制約を公式ガイドに明記しています。

第 2 階層は Miro・Mural・Canva Whiteboards・Zoom Whiteboard などで、FigJam から PNG / JPG / PDF / CSV を書き出して取り込む形になります。これは参照資料としての取り込みで、オブジェクトを編集可能な形で復元するものではありません。

付箋・コネクター・表・画像・リンク・埋め込み・フォント・コメント・投票結果・ユーザー権限・版履歴のうち、どこまで維持されるかはツールと要素の組み合わせで差があります。代表ボードを 10〜20 枚選び、Whimsical と Lucidspark へのコピー&ペーストと、Miro や Mural への静的インポートを同じ素材で比較する PoC を回してから、本格移行の可否を判断するのが安全です。

結論

FigJam の代替選定は、2026 年 10 月時点では「全社で乗り換える 1 本の正解」を選ぶ作業ではなくなっています。Figma を使い続けるデザインチームには Collab シート月 3 USD が最も合理的で、エンジニアリング中心のチームには Excalidraw、ファシリテーション主体のワークショップには Mural、規制産業には Miro Enterprise か AFFiNE のセルフホスト、日本企業の全社展開には Cacoo スペースプラン、構造化作図を伴う図解には Lucidspark + Lucidchart のスイートが合います。

Microsoft Whiteboard の単体アプリは 2026 年 10 月 16 日に終了するので、新規導入先として前提に置くのは避けた方が安全です。Google Jamboard の終了時に元データが削除された事例を踏まえると、どのツールを選ぶ場合でも、PDF と画像、付箋の CSV を定期的に書き出すアーカイブ運用は欠かせません。

以上、2026 年 10 月時点で FigJam の代替候補を棚卸しし、用途ごとの第一候補と移行コストを整理した、現場からお送りしました。

参考情報