『コーポレート・トランスフォーメーション 日本の会社をつくり変える』冨山 和彦(著) を読んだので、書籍から得た知見をご紹介します。
書評『コロナショック・サバイバル 日本経済復興計画』 の続編かつ、私自身が会社経営をしており DX を推進する事業に取り組んでいるということもあり、必読書だと感じて読みました。
以下、印象に残った箇所の引用とメモです。
結局、組織能力自体をもっとも重要な経営対象として、その可変性を大きくしない限り、持続的に競争優位を保つことは難しい時代に入っているのだ。今や現実の戦略は組織能力の従属変数であり、急速に変転を続ける最適戦略を打ち続けられる組織能力を持っていることが真の競争優位性の源泉なのである。
? 組織能力=重要な経営対象
イノベーションの時代を経営するには、一方で既存事業を「深化」して収益力、競争力をより強固にする経営と、イノベーションによる新たな成長機会を「探索」しビジネスとしてものにしていく経営の両方が求められる。
? DXの文脈でもこれをやっていく必要がある。
やはり腰を据えて取り組まなくてはならないのは「DXごっこ」ではなく、両利きの経営力を手に入れるための真剣勝負の取り組みなのである。
? DXごっこではなく、両利きの経営力
サッカーの素質のある人間を集め、あるいはM&Aで組織ごと獲得し、新しいモデルの中核事業、中核機能の一つと位置付け、今、稼いでいる野球集団と、これから稼いでもらうサッカー集団の両方が共存できるような、両利き的な組織アーキテクチャへと会社のカタチを作り直さなければならないのだ。
? 自分が経営している会社でも、クライアントワークをやりつつ、自社プロダクトをやるという、両利きの経営を推進していかないといけない。
オープンイノベーションごっこやDXごっこが好きな人たちは、ITとかデジタルとかいうと、GAFAやセールスフォース・ドットコム、ネットフリックスといった新興の破壊的イノベーターの話が好きだ。しかし、古くて大きい(おそらくは大きくなくても)既存企業にとって示唆が大きいのは、マイクロソフトやノキアのトランスフォーメーションの物語の方である。
? 古くて大きい既存企業はマイクロソフトやノキアのCX, DXを参考にすべき。
私は多くの日本企業は、この時期、後者の組織能力ポートフォリオ評価を真剣にやるべき時が来ていると思う。例えば日本企業のソフトウェア構築能力の弱さ、組み込みソフトなどに多い低いレイヤーの作り込みやカスタマイゼーション対応力ではなく、標準アーキテクチャの設計のような高い次元のソフトウェアやソフトウェアサービスの構築力の低さは昔から指摘されている。しかし、その問題に手段を問わず本気で取り組んだ例を私はあまり知らない。グーグルやアップルと同じ土俵で、同等以上の条件(職場環境、勤務場所、裁量権、テーマの質、報酬などなど)のオファーで世界のトップ人材を獲得しにいっているとは思えない。最近、日本の大企業が、やっとこさ東大などのトップレベルのAI専攻の学生を特別に年俸1500万円で採用する動きを見せたりしているが、あまりに遅く、あまりにショボい。
? 組織能力ポートフォリオ評価を真剣にやるべき。
しかし、意見がまとまりかかっている時に、フーテンの寅さんじゃないが「それを言っちゃあおしめえよ」的なちゃぶ台がえしのそもそも論を言い出し、自らの新しいアーキテクチャ観で世界を変えようと考える連中が、アーキテクチャの戦いの「頭脳」を制して新しい産業構造の支配者になってきたのである。極論すればそれ以外の単なる筋肉や骨格だけを作っているプレーヤーは頭脳を支配する会社の奴隷にされていくDXの流れの中で、オープンイノベーションの最重要な狙いは、国籍、老若男女を問わず、アーキテクチャ構築力、アーキテクチャ転換への対応力を組織能力として持続的に持ち続けることとなる。
? アーキテクチャ力を組織能力として持ち続けたい。
また、パナソニックは最近、これまたロボティクスの世界の「ロックスター」、カリフォルニア大学、MITそしてカーネギーメロン大を経てネストの創業メンバーとなり、グーグルがネストを買収したことでグーグルXのリーダーの一人となっていたYokyこと松岡陽子氏と彼女のチームを迎えた。彼女と彼女の仲間も典型的なアーキテクチャ発想、「そもそも私たちは家電製品や住設製品で何をするべきなの?顧客は何のためにお金を払っているの?」から発想するタイプの人たちである。
? アーキテクチャ発想。 そもそも〜で、何をするべきなの? 顧客は何のためにお金を払っているの?
大企業の経営よりも中堅・中小企業の経営の方が簡単ということは決してない。要は優秀な経営人材こそが希少資源であり、その希少資源に一つでも多くの企業体を経営させたほうが良いという意味でも、会社の数は減らしたほうがいいのだ。
? 優秀な経営人材は希少資源なので、会社の数は減らした方が良い。
ペンローズの指摘の通り、どんな偉大な経営者であろうと、社会の次元から見れば使い倒すべき生産資源に過ぎない。その視点に立って、才能と意志ある者を若い時から選び、激しく鍛え、ダメな奴は落とし、絞り込んでいく仕組み、そして出来のいいリーダーは公共財として徹底的に使い倒す仕組みをこの国は再構築する必要がある。
? 経営者は社会の次元から見ると使い倒すべき生産資源、という客観的視点を常に持っておきたい。
以上、「DXごっこ」にならないように両利きの経営を意識してやっていきたい、現場からお送りしました。